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記事: Vegans and the Future of Food

Vegans and the Future of Food

Vegans and the Future of Food

Part02 地球と共存する食文化 吉松 努

2019 年ごろから各店舗で提供をはじめたヴィーガンメニュー(料理、お菓子・パンなど)は、いまではウッドベリーのフードメニューの中心的な存在となりつつあります。先月号では、近年ますます注目を集めている「ヴィーガン(完全菜食主義者)」とはどういったライフスタイルなのかということとあわせて、私がみてきた日本における受容と世界的なトレンドの変化および、ヴィーガン料理の可能性についてご紹介しました。
今月号ではウッドベリーが提供しているヴィーガンメニューがどんなふうにつくられたかを具体的にみていきたいと思 います。そしてウッドベリーの「コーヒーを通してより良い世界を作る」というヴィジョンと照らしあわせたときに、ヴィーガン料理が果たす役割についてもお届けします。



味を立体的につくる

私たちはすべてのヴィーガンメニューで、「ヴィーガンでも美味しい」ではなく「ヴィーガンだから美味しい」ものを目指して開発に取り組んできました。とても時間がかかりましたが、どれも納得のいくものにすることができ、お客様からも「これがヴィーガン?」という反応 を多くいただいています。

なかでも人気なのは、ヴィーガンダル バートカレーとブッダボウルです。
ヴィーガンダルバートカレーの「ダルバート」とは、豆のスープ状のカレー(「ダル」) とご飯(「バート」)、漬物や惣菜などの副菜が盛られた、ネパールの代表的な定食です。ウッドベリーでは、レンズ豆のカレーとマッシュルームマサラカレーを合いがけにして、副菜ににんじんのアチャール(南アジアの漬物)、赤キャベツのマリネ、サラダを盛っています。



開発にあたっては、まず、ヴィーガン料理では大豆製品と並んでお肉の代わりに使われることの多いキノコ(今回の場合はマッシュルーム)を、味や香り、食感の面から採用しました。玉ねぎやニンニクでつくったベースに、ココナッツミルク、クミンシード、オールスパイスなどを組み合わせて、マッシュルームのうま味とコクを引きだしたカレーにしました。いっぽうレンズ豆のカレーは、そのマイルドな味と対照的にタマリンドとスパイスを組み合わせてすこし酸味のあるカレーに仕上げました。

カレーだけでなくどの料理でもいえることですが、ヴィーガンレシピで料理をつくるにあたって、動物性食品がないことで料理としてのパワーが落ちてしまうことが課題となります(極端にいえば、お肉を使えば塩・コショウだけでも満足させられます)。そのため、満足感を得られるヴィーガンメニューをつくるには、(素材の味も重要ですが)スパイスやハーブを使って味を立体的につくる必要があります。そして、いろいろな食材で香りや食感の要素を足していき、料理としてのパワーを高めていくことが大切なのです。

ブッダボウルは、ボウルに野菜や穀物などを盛り合わせたポピュラーなヴィーガンメニューです。ウッドベリーではサラダの上にビーツのフムスやアボカド、季節野菜を使ったキヌアサラダ、紫キャベツのマリネ、ブロッコリースプラウトなどを乗せています。ビーツの入ったレッドフムスは海外のレシピを参考にしてつくりました。海外のほうがトレンドの進行が速く、さまざまな発想の料理がどんどん出てくるため、海外のレストランの情報をチェックするのもヴィーガン料理をつくるうえで欠かせないことだと思っています。

ブッダボウルで苦戦したのはドレッシングづくりでした。オリーブオイルと塩だけでは味がシンプルすぎるため、いろいろなレシピを参考に試行錯誤して辿りついたのが「タヒニドレッシング」です。タヒニとは、生の白胡麻をペーストにした中東の調味料で、ヴィーガンフードでよく使われています。ウッドベリーでは、タヒニにオリーブオイルやビネガーをくわえてベースをつくり、日本人の味覚にあわせて醤油をすこし入れています。
また、キヌアやブロッコリースプラウト、ヘンプシードなど、スーパーフードと呼ばれる食品を多く入れているのも、栄養価の高い料理をつくることを心がけているからです。

ヴィーガンレシピへの"翻訳"

基本的に牛乳やバターが欠かせないお菓子・パンは、フードメニュー以上に代替となる食材を活用していきます。その作業は、喩えるなら翻訳や実験に近いかもしれません。
牛乳の代わりとなるのは、まずは豆乳です。あるいは生クリームのように脂肪分の多いものを使用したければココナッツミルクや、それを煮詰めたものを使います。いっぽうバターの場合は、菜種油(と豆乳)などで代用したり、うま味や香ばしさを補うためにナッツやアーモンドパウダーを使用したりします。

ほかにも卵も使えないので、独特の香りやうま味・質感を再現するためにココナッツミルクやナッツをペースト状にしたものを使います。あるいは、かぼちゃも卵に似た香りがするので、かぼちゃにココナッツミルクやバニラをくわえてカスタードを表現することもあります。



まだ日本ではヴィーガンスウィーツのレシピが見つけにくいため、海外のレシピを参考にすることはもちろん、他店の商品を買ってきては、みんなで「これは何を使っているんだろう?」と推測することもあります。そうした研究を重ねながら、理想の味やイメージを目指して、どんな食材をどれくらいの割合で使うかを調整していくのです。

また、ヴィーガンレシピで再現すると綺麗な味わいになり、素材の味がはっきりとわかるものになります。そのため、素材選びがより重要となり、私たちは数種類の小麦粉や砂糖を使いわけています。とくにおもしろいのは、「スペルト小麦」という古代小麦の一種を使った小麦粉で、一般的なものと比べて栄養価が高く、焼くとナッツのような香ばしい香りがします。たとえばヴィーガンスコーンでも、ふつうの強力粉で焼くとすこし物足りなく感じるのですが、スペルト小麦を混ぜこむと卵を使っているような香りが出ます。また、アレルギーリスクもすくなく、グルテンを気にされている方にもおすすめしやすい食材なので、ほとんどのパンでスペルト小麦を使用しています。


ヴィーガンとサステナビリティ

「食」は生産から消費まで多くの資源と労力を必要とします。そのため持続可能な社会を実現するうえでは、環境負荷を考えた食材選びをすることが非常に大切です。たとえば、ウッドベリーではコーヒーのトレーサビリティを確保し、ダイレクトトレードをおこなうことで生産者との直接的な関係を築いていますが、これはコーヒーだけでなく食材全般にも当てはまるべき考え方だと思っています。できるだけ地元の旬の食材を活用し、フードマイレージを減らすことで地球環境に貢献する。私たちが可能な限りオーガニック食材を使用しているのも、そう した理由からです。

そしてヴィーガンフードもまた、健康促進や多様な食文化への対応だけでなく、環境負荷の軽減という面でもサステナビリティと密接につながった食べものです。というのも、動物性食品の生産(畜産業)には大量の水や飼料を必要とし、また、家畜が消化の際に発生させるメタンガスは二酸化炭素の約30 倍の温室効果をもっているといわれ、いずれも地球温暖化に対する影響が懸念されているからです。動物性食品を一切使用しないヴィーガンフードは、コーヒーがまさに直面している環境問題の解決に寄与する食事ともいえるのです。



また、旧来より、食品業界では廃棄される食材が大きな問題になっています。とくにパンや焼き菓子は、翌日には売れなくなることが多いため、再利用の方法を考えることで無駄を減らす必要があります。ウッドベリーでは、本来捨てられる野菜の皮やヘタからとった出汁をスープに使用したり、自家製レモネードに使用したオレンジやレモンをパンやジャムに加工するほか、抽出後のコーヒー豆をエプロンにアップサイクルしてユニフォームにするなど、創造的なアプローチの可能性を日々探っています。

「食」は人の欲求のなかでも大きな部分を占めるものです。人生の幸福度を大きく左右し、一生向きあってゆくものだからこそ、私たちはたんに美味しいものを提供するだけでなく「食を通じて地球の未来に貢献する」ことを意識した取り組みをつづけていきたいと考えています。
そしてまた、「食」はたんなる消費行為ではなく、文化やコミュニティとも深くかかわるものです。今後、ウッドベリーでは、より多様なヴィーガンメニューの開発に取り組むと同時に、地域コミュニティと連携した取り組みも強化していきたいと考えています。たとえば、日本人として、日本の伝統的な発酵食品(麹)やローカルの食材を活かした料理を取り入れることもまた、持続可能な未来につながると思っています。



地球の未来を考えた食文化をつくっていくためには、消費者自身が環境や健康に配慮した選択ができるようになることがなによりも大切です。そのためにも、食材の背景や生産者のストーリーを伝え、ふだんの食事にも持続可能な食も取り入れていただけるよう、その選択肢をひろげる努力も必要となります。ウッドベリーではコーヒーの生産背景を本誌やSNS などをとおして発信していますが、ベーカリーでも同様に、食材や製法について学べるワークショップを実施するなど、お客様とともに持続可能な未来を考 えていきたいです。

そうした小さなアクションの積み重ねが、より良い未来をつくる第一歩になると信じています。それを多くの方に「美味しい」「楽しい」と受け入れてもらえるように本当に価値のあるものをつくりつづけていきたい。コーヒーを中心としつつも、ヴィーガン料理などいろいろなものを巻きこみながら、より大きな枠で地球の未来に貢献できるような方向に進んでいきたいと思っています。

オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE34より抜粋

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