【DIRECT TRADE WITH EL SALVADOR VOL.4】6つの生産地域とパカマラ種
私たちウッドベリーコーヒーは「コーヒーに携わるすべての人が豊かになること」を目指しています。【EPISODE OF EL COLORIDO】の連載で取りあげた「グアテマラ/エル・コロリド」もまた、その目標を実現するための取り組みのひとつでした。グアテマラを訪れた私たちはそして、もうひとつの夢であったダイレクトトレードをおこなうべく、エルサルバドルへと向かいました。
この連載では、私たちがおこなったエルサルバドルとのダイレクトトレードについてお伝えしていきたいと思います。
6つの生産地域
エルサルバドルには、6つのコーヒー生産地域があります(次頁、図1)。それぞれ、アパネカ・イラマテペック(西部)、アロテペック・メタパン(北西部)、エル・バルサモ・ケサールテペック(南西部)、チチョンテペック(中南部)、テカパ・チナメカ(東部)、カカウアティケ(北東部)と呼ばれています。私たちは初年度にそのすべての地域、約30個程度の農園を訪れました。
たとえば、チャラテナンゴ県とサンタ・アナ県北部にまたがる北西部のアロテペック・メタパン地域は比較的新しい栽培地域で、小規模農家が多く、高価格・高品質なコーヒーがつくられています。いっぽう、サンタ・アナ県南部とアウアチャパン県、ソンソナテ県にわたるアパネカ・イラマテペック地域には、創業100年を超える大規模な農園が数多くあります。大量生産をおこなっているためハイブリッド種のような病害虫に強い品種が多く育てられていますが、高価格帯の品種も栽培されています。
そのように各地域ごとに農園の規模や品種、味わいなど、さまざまな違いがあります。前回、エルサルバドルの生産者を支えるサルバドルコーヒー評議会(現サルバドルコーヒー協会)が土壌の分析をおこない、適した品種を農園に推薦していることについてもご紹介しましたが、そのお話を現地で伺い、また、実際に各地の農園を訪れたことで、私たちもテロワールと品種の組みあわせについて、深く考えるようになりました。
エルサルバドルを象徴する「パカマラ種」
エルサルバドルで栽培されているコーヒーのなかで、ひときわ有名な「パカマラ」という品種があります。エルサルバドル原産のパカマラは、トロピカルフルーツのようなフレーバーと、プラムのようなジューシーではっきりした酸味をもち、なめらかな口当たりが特徴的です。品評会で受賞したエルサルバドルコーヒーのうち半数以上をパカマラが占め、高品質な品種として知られています。
パカマラは1950年代にエルサルバドルで発見され、サルバドルコーヒー研究所による長年の研究の末、アラビカ種の「パカス」(ブルボンの自然突然変異種)と「マラゴジッペ・ロホ」(ティピカの突然変異種)を交配してつくられました。木は低い背と大きな葉が特徴で、ひと目みればわかるほどユニークな見た目をしています。また、実が大きく、焙煎豆もかなり大きいのも特徴です。ゲイシャ種とは異なり、高品質ながらも生産量が多く、木が小さいため密集して植えることができて収穫しやすいのもポイントです。しかし病害虫には弱く、近年は気候変動の影響を強く受けています。エルサルバドルの火山性土壌と乾燥気候はパカマラの栽培にもっとも適した環境であり、エルサルバドル全域で栽培されています。パカマラは同国で栽培されている他の品種と比べても品質の高さが際立っていますが、なかでも前述のアロテペック・メタパン地域で育てられたものは、より綺麗で甘く、繊細な味わいをしています。
ところが、私たちがまわったなかで唯一、パカマラがほとんど栽培されていない場所がありました。アパネカ・イラマテペック地域にコアテペケ湖というサンタ・アナ火山の活動によってできた大きなカルデラ湖があります。その周辺は湿潤な気候をしているため、ゲイシャやブルボン、カトゥーラといった品種が栽培され、どれもが高い品質を誇っていました。僅かなエリア特有の気象条件を指す「微小気候」(マイクロクライメイト)という概念がありますが、コアテペケ湖周辺はまさに微小気候によって美味しく育つ品種が異なることを知ることができた地域でした。
持続可能なコーヒーづくりのために
ある農園では、2022年から23年にかけて、陽射しが強く、雨が多い気候が続いたことで、パカマラの多くが病気になってしまったと訊きました。バイヤーからもパカマラよりもゲイシャが求められることが多いため、病気に弱く売りづらいパカマラよりもゲイシャを植えるべきなのかと悩んでいるそうです。ゲイシャを育てるには、テロワール的にも中米の南のほうが適しているため、他国に勝るものを育てるのは一筋縄ではいかないかもしれません。それに、個人的にもエルサルバドルの象徴ともいえるパカマラを減らしてしまうのはもったいないことのようにも思えます。ただし、それは私個人の意見に過ぎません。私たちがエルサルバドルから生豆を仕入れて販売してもゲイシャのほうが人気であることも事実であり、単純にゲイシャがよくないともいえないため、どちらを育てるのが農園にとってよいことなのか、まだ判断がつかないといったほうが正確でしょう。
しかしひとついえるのは、ダイレクトトレードを続けることが生産者の投資につながり、気候変動の影響を受けても彼らが品質維持ができる体制や設備を整えたり品種の植え替えをおこなったりするのを支えられるということです。いずれの場合でも、持続可能な方法を模索することがテロワールを活かした美味しいコーヒーづくりにつながってゆくのだと私たちは生産者の方々を信じています。
オリジナルマガジン "Pneuma" ISSUE20 より抜粋
連載5回目「VOL.5 「続ける」ことでみえる景色」は、こちらからご覧いただけます。