【11月のおすすめ】黄桃やマンゴーのようなスイートな味わい「エルサルバドル / ロス・ピリネオス」
今回は11月より販売開始の「エルサルバドル / ロスピリネオス」のコーヒーをご紹介します。
ロス・ピリネオス農園の基本情報
- 生産国:エルサルバドル
- 地域:テカパ・チナメカ
- 生産者:ディエゴ・バラオーナ
- 標高:1,300 - 1,600m
- 品種:パカマラ
- プロセス:ナチュラル
エルサルバドルのコーヒーについて
エルサルバドルでコーヒーの栽培が始まったのは1740年ごろ。徐々に生産量を増やし、1860年代半ばから1870年代初頭にかけて急激に成長しました。1879年にはそれまで主な輸出品目であった藍(インディゴ)の輸出量を上回り、1940年ごろまでには輸出品目の80〜90%を占めました。インディゴは、長い間エルサルバドルとグアテマラの両方の主要な輸出作物でしたが、1880年代に新しく安価な人工塗料が利用可能になると、インディゴ輸出事業は徐々に衰退していきました。
1931年にマルティネス将軍がクーデターによって大統領に就任して以降、度重なるクーデターで激しく移り変わる政権によって内政は不安定になっていきました。その間もコーヒー産業は成長を続け、1975年には世界3位の生産国となり、1978年には収穫量が史上最高記録(20万1千t)に達します。しかし、エルサルバドルのコーヒー産業はふたつの大きな困難に直面します。
①エルサルバドル内戦(1979年〜1992年)
1979年にロメロ政権がクーデターで倒されて革命評議会が発足すると、翌年に反政府ゲリラの5組織からなるファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)が結成され、それに対抗するかたちで極右の活動も横行し、泥沼の内戦状態に突入してしまいます。1992年に和平合意が成立するまで、13年間にわたる長期的な内戦はコーヒー産業にも大きな打撃を与え、収穫量は半分以下(8万9千t)まで減少してしまいました。その要因は不安定な農業改革や税制政策だけでなく、戦闘が山岳地帯で行われたことで、多くの生産処理場が破壊されたことにもあります。私たちが訪れたチャラテナンゴ地域はとくに被害が大きく、「ここはもともと更地だった」という話も耳にしました。チャラテナンゴに小規模農家が多く、パカマラ種のような新しい品種が育てられている傾向にあるのも、エルサルバドルのコーヒーが内戦の傷を乗り越えたことの表れなのかもしれません。
②サビ病の発生
2012年、エルサルバドルのコーヒーはもうひとつの危機に陥ります。それはサビ病の発生です。サビ病は葉の裏にサビのような斑点が広がり、光合成機能が失われて木が枯れてしまう病気です。強い伝染力をもち、壊滅的な被害をもたらします。内戦によって減少した生産量は、さらにサビ病に直面したことで2万tまで落ちてしまいました。世界第三位の生産量を誇った時期と比べると、実に1割程度まで減少してしまったのです。
サビ病によって岐路に立たされたエルサルバドルは、国をあげてコーヒーの生産を増加させる方策を取りました。2012年は、国際的にスペシャルティコーヒーの市場が大きくなり始めた時期でもあったからです。 生産量で他国に敵わないからこそ、少ない生産量でもしっかり稼ぐことができる仕組みを国全体でつくろうとしたのです。国際相場は135ドルに対し、プレミアムは309ドルで取引されています。
パカス品種とパカマラ品種
パカス品種はエルサルバドルのサンタ・アナ県にある「サン・ソフィア農園」にて発見され、現在ではエルサルバドルの生産量の25%を占めています。パカスはブルボンの変異で生まれた矮小品種で、小さい背丈が特徴です。そのおかげで狭い範囲により多くの木を植えることができ、1ヘクタールあたりの収量を増やすことができます。また、背が低いため収穫も容易に行うことができ、高地で吹くような強風にも耐えることができます。
パカマラ品種は、遺伝学者Angel Cabreraが率いる現存するInstituo Salvadoreño para la Investigacion de Café(ISIC)の研究室で開発されパカス品種とマラゴジッペ品種の交配種です。この品種は、より生産的な品種と比較してしばらくの間見落とされていましたが、過去10年間で品質主導の生産者によって大きな評価を得ている品種です。やや不安定な品種になっていて、パカスの遺伝が大きく影響しているパカマラ品種やマラゴジッペの特徴が色濃く出ているパカマラ品種もあります。単にパカマラ品種といってもキャラクターの幅が広いですが、品質はとても高くCup of Excellenceで入賞していることも多い品種です。
ロス・ピリネオス農園とパカマラ品種
ロス・ピリネオス農園は、エルサルバドル東部のテカパ・チナメカに位置しています。エルサルバドルは地域ごとで土壌の質が異なり、西側は(場所によっては石灰を多く含む地域もありますが)黒土を基本としている一方で、テカパ・チナメカのある東側は赤い火山性の粘土質土壌が特徴的です。
また、ロス・ピリネオス農園は、エルサルバドルの主力品種でもあるパカマラ品種の開発に関わった農園でもあり、現在も品種特性が安定しないといわれているパカマラ品種の種子バンクの役割を担っています。実際にさまざまな農園でパカマラ品種をみて歩くと、交配元のパカス種/マラゴジッペ種のどちらかに偏った特徴がみられるパカマラ品種が確認でき、品質の不安定さを認識させらました。だからこそ、ロス・ピリネオスが種子バンクの役割を担っていることは、その栽培品質が信頼されていることの証であるといえます。
ロス・ピリネオスで育てられたパカマラ品種は収穫後、アフリカンベッドで乾燥されます。アフリカンベッドが一面に広がる広大な人工の台地は、一日中日当たりがよく、一貫して西風が均一に吹くため安定した乾燥をおこなうことができます。それによってカビの発生も軽減され、きれいな味わいのコーヒーに仕上がります。
今回ご紹介するパカマラ品種は、穏やかな酸味と厚みのあるなめらかな口当たりが特徴です。黄桃やマンゴーといった甘さの印象が強いフルーツを連想させる味わいのスイートなコーヒーを、ぜひお楽しみください。
エルサルバドル/ロス・ピリネオスのおいしい淹れ方
今回のエルサルバドル/ロス・ピリネオスは、黄桃やマンゴーを思わせるまろやかな甘さが特徴的なコーヒーです。浸漬式で抽出することで甘さや口当たりをしっかりと取り出し、その味わいをより楽しめるようなレシピを目指しました。
- 使用器具:HARIO V60 Swtichドリッパー
- コーヒー:16g, Timemore C3 #18クリック
- 水:240g, アルプスの天然水
- 湯温:92℃
- ドリッパーに16gの中挽きのコーヒーをセットします。スイッチはCLOSEの状態。
- タイマーをスタートさせ、スイッチはCLOSEの状態で80gまでお湯を注ぐ。
- タイマーが0'45になったらスイッチOPEN。
- タイマーが1'00になったらスイッチをCLOSEにして160gまでお湯を注ぐ。
- タイマーが1'45になったらスイッチOPEN。
- タイマーが2'00になったらスイッチをCLOSEにして240gまでお湯を注ぐ。
- タイマーが2'45になったらスイッチOPEN。
- ドリッパー内のお湯が落ち切ったら抽出終了です。