【Episode of El Colorido: Vol.4】 来るべき理想に向かって
エル・コロリドは、生産者、消費者、自然環境のすべてにとってGOODで、サスティナブルであることを目指して活動するGOOD COFFEE FARMS(以下、GCF)による「My Farm契約」プロジェクトから生まれたコーヒーです。2022年2月、私たちは農園のひと区画をお借りしたグアテマラのハラパ県にあるナランハレス農園を初めて訪れました。これまで三回にわたって農園の様子をお届けしてきた連載も、今回が最終回。第一回「グァテマラへ──コーヒー生産の険しい道のり」で、グアテマラのコーヒー生産における構造的な搾取と貧困問題、その解決に向けたGCFの取り組みを紹介しましたが、今回はもうすこし話の射程をひろげながら彼らの活動の意義を掘りさげていきたいと思います。
さて、彼らの取り組みのなかでも、とりわけ注目を集めているのは「自転車脱穀機」の導入です。その名のとおり、自転車を漕ぐことでチェリーから生豆を取りだす設備で、簡易的かつ低価格で導入することができます。そのうえ、一般的な大型のウォッシングステーション*1とは異なり、燃料や電力、水も使用しません。グアテマラでは生産処理時の汚水が川に流されることで起きる環境汚染が問題となっていますが、自転車脱穀機ではその心配もありません。
私たちも現地で自転車脱穀機を漕いでみました。農園は標高1500m程度の場所にあるため、まるで高地トレーニングのようでしたが、街で自転車に乗るのと変わらない力で漕ぐことができたのには驚きました。自転車脱穀機によって、各農園は自分たちで生産処理をおこなえるようになります。コマーシャルコーヒーの生産者たちは収穫したチェリーをコヨーテ*2に販売するしかない現状のなかで、自らで生産処理をすることで味を改善し、付加価値をつけることができます。それは収入の増加に直接つながるため、生活を豊かにすることも、新たな設備の導入も可能となるかもしれません。自転車脱穀機は簡易的だけれども、貧困解決のための理想的なサイクルを生み出す設備なのです。
同時に、その取り組みは世界的なコーヒー生産の未来を見据えたものでもあるといえるでしょう。というのも、2050年にはコーヒーの収量が全体の2/3にまで減少するといわれ、生産者は収量=収入の減少を補うためにコーヒーに付加価値をつけることが求められているからです。
いっぽうで、視点を私たち消費者に移した場合、付加価値のついたコーヒーの値段にかんする認知が広がっているのかといえば、まだじゅうぶんではないと言わざるをえません。たとえばコンビニで買うコーヒーは100円ですが、ウッドベリーで販売しているコーヒーは700円です。値段の差は味のちがいなのだと漠然と理解できても、それを実現するための背景まで説明できる方はそう多くはいらっしゃらないでしょう。必ずしもすべての人がそうあるべきとまでは考えませんが、今後、長いスパンでコーヒーの未来を考えたときに、私たちにはコーヒーにおける付加価値とその理由を、みなさまにお伝えしつづける義務があると考えています。
そのためには当然のことながら、より多くのスペシャルティコーヒーを販売しつづけなければいけません。グアテマラで作られるコーヒーの99%はコマーシャルコーヒーで、残りの1%がスペシャルティコーヒーに過ぎませんが、そのたった1%ですらも日本で売るための苦労は尽きないというのが現状です。たとえGCFが生産者を支え、全体の品質の底上げが実現しても、売れなければ意味がありません。GCFの理念に共感し、販売する立場として参加している私たちにとって、スペシャルティコーヒーの裾野を広げ、生産者たちがつくってくれた素晴らしいコーヒーを買いつづけることが、なによりもの課題なのです。
もちろん、コマーシャルコーヒーがすべて悪いわけではありません。価格が安くても相当量の取引となるため生産者の生活は支えられています。すべてがスペシャルティになればいいというわけではなく、それぞれの農園に適した方法を、負担のないバランスで選択できるようになることがコーヒー業界が理想とする目標のひとつといえるかもしれません。
しかしながら、スペシャルティを作ることができる農園はコマーシャルコーヒーも作ることができますが、その反対はありえません。だからこそ、GCFは品質向上のための知識を共有し、教育を行うことを活動の中心に据えているのです。
その理想を実現するために、私たちにとってまずもっとも重要なことはおいしいコーヒーを作ることです。そしてもうひとつ重要なのは、継続すること。私たちは、毎年グアテマラを訪れ、前年を超えるコーヒーを生み出すための努力をおこないながら、課題解決に取り組んでいきたいと考えています。「エル・コロリド」はそうした理念のもとにつくられたコーヒーなのです。