【DIRECT TRADE WITH EL SALVADOR VOL.6】3年目の旅路
これまで、私たちウッドベリーコーヒーがおこなっているエルサルバドルとのダイレクトトレードの歩みを5回にわけてお伝えして参りました。「コーヒーに携わるすべての人が豊かになること」を目指して2022年に始まったダイレクトトレードも、この2月(2024年)に3年目を迎え、またひとつ歩みを進めることができました。
今回は特別篇として、買いつけから帰国したばかりのフレッシュなストーリーをお届けします。
3年目の旅路
まずいちばんの感想は、昨年よりもさらに農家さんとのつながりを深めることができた年だったということです。今年初めて同行した用賀店の井川くんの高いコミュニケーションスキルも加わり、ビジネスというよりも家族的な関係を築けたように思います。笑顔が見えたり、こんな表情をするんだと思うシーンがたくさんあって、生産者の方々の人となりが見えるようになってきました。
井川くんもまた、二年前からずっとお客様に紹介してきた生産者さんとようやく会えたことに感動したようです。最初に訪れたラス・ヴェンタナス農園では、農園がつくられた内戦時代のお話を伺い、彼らが重ねてきた努力に感情を揺さぶられて号泣していました。そんなエモーショナルなできごとの多い再訪となって、私自身も嬉しく思いました。追って、生産者の方々のインタビュー動画をウッドベリーのYouTubeチャンネルにアップする予定ですので、彼らの姿も楽しみにお待ちいただければと思います。
さて、エルサルバドルへは、GOOD COFFEE FARMSの「My Farm契約」でお借りしているグアテマラのナランハレス農園での自社ブランド豆「エル・コロリド」の収穫・生産処理などを終えてから向かいます。3年目となってその旅路にはずいぶん慣れましたが、今年はひとつ大きなトラブルがありました。グアテマラからエルサルバドルに向かう夜の飛行機が、おそらく機械トラブルでキャンセルになってしまったのです。アナウンスがスペイン語のみで何もわからないうちにまわりの乗客が降りはじめ、怖い思いをしました。急遽、航空会社が手配したホテルに泊まり、翌日早朝の便でエルサルバドルに向かうことになりました。その影響で初日は予定よりも三時間ほど遅れが生じてしまいました。朝イチの便でエルサルバドルに到着してすぐに、通年取り扱っているチャラテナンゴのラス・ヴェンタナス、ミレイディ、トレス・ポソスの3農園をまわりましたが、トレス・ポソスに着くころには夜になってしまいました。足元すら見えないほど暗く、農園の小屋でお話しするかたちになってしまい、インタビュー動画も撮ることができなかったのはひとつ心残りなできごとでした。
多彩なコーヒーを求めて
今年は、一週間の滞在で9つの農園をまわりました(ひとりの方が経営している複数農園をまわることもあったため、厳密には9生産者といえます)。そのうち、サンタ・アナにあるサン・アントニオ農園は初めて訪れた農園でした。サン・アントニオはCup Of Excellence(以下COE、スペシャルティコーヒーの品評会)の受賞銘柄もふくむ、エルサルバドルコーヒーの生産処理や輸出を請けおう大規模な工場をもっています。サッカーコート十面分のパティオがあったり、25mプール大の発酵槽がふたつあったり、とにかく設備が大きく圧倒されました。買いつけはしませんでしたが、レスティング(コーヒーチェリーを休ませる工程)から、比重選別と手選別、カラーソーティング(色選別)の3つの選別作業、そしてパッキングまで、一連の工程をしっかりと見る貴重な機会を得ることができました。
買いつけをおこなったのは7農園10銘柄、合計4.7トン。昨年は5農園で3.2トンだったため、前年よりも量を増やすという継続目標も達成できました。
今年の目標としてひとつ、ブルボンやパカスの美味しいものを探したいと考えていました。パカスはパカマラと並ぶエルサルバドル生まれの品種なので、ラインナップとして持っておきたかったのです。いっぽうブルボンは、これまでもブレンドに使用しており、今年用の銘柄を探していました。そのためにも、エルサルバドルを訪れるタイミングを二週間ほど遅らせ、さまざまな種類のサンプルが出揃うタイミングを狙いました。結果的に、ブルボンやパカスだけでなく、のちにご紹介する高地で栽培された品種なども買うことができたので大きな成果がありました。
高い品質を誇るエルサルバドルコーヒー
今年新しく買うことのできたふたつの農園は、いずれも実際に訪れることはできませんでしたが、カッピングが決め手となりました。
ひとつは、チャラテナンゴにあるラ・モンタニータ農園のパカス。もうひとつは、ミレイディ農園が経営しているラ・ボニータという別農園のパカマラです。ラ・ボニータ農園は標高1,900mの高地にあり、昨年からオファーを出していたもののサンプルが届かず買うことができなかったので、念願でもあります。ただ、ラ・ボニータはチャラテナンゴのラ・パルマからさらに二時間ほどかかる奥地にあり、訪問は叶いませんでした。COEのオークションで私たちが単独落札したサンタ・フェ農園も同じ地域にあるため、来年はチャラテナンゴにもう一泊して訪れたいと個人的には思っています。
これまで取り扱ってきたミレイディ、ラス・ヴェンタナス、トレス・ポソス、ロス・ピリネオス、ブエナ・エスペランサの5農園も継続し、買いつけ量を増やしました。どの農園も去年よりクオリティが上がっており、気候的によい年だったのではないかという印象をもちました。そのなかでもとくに驚いたのは、ロス・ピリネオス農園のゲイシャです。去年のカッピングではゲイシャかSL28のどちらを買うかを悩んだ末にSL28を選びましたが、今年は圧倒的にゲイシャが美味しくなっていて、思わず全量を購入しました。じつはいままでエルサルバドルのゲイシャにはすこし線が太いイメージをもっていたのですが、ロス・ピリネオスのゲイシャは、華やかでボディ感が薄く、ゲイシャらしい繊細なフレーバーがしっかりと表れていると感じました。ロス・ピリネオスのほかにも、同農園のあるテカパ・チナメカ地域のゲイシャを飲む機会が何度かありましたが、この地域はとくにゲイシャの思ったようなフレーバーが出る地域なのだという新しい気づきがありました。ロス・ピリネオス農園はほかにもパカマラのブラックハニー・プロセスやレッドブルボンのウォッシュト・プロセスの品質も高く、先に書いたブレンド用のブルボンとしてロス・ピリネオスのものを購入することにしました。
魅力の詰まった“特別”なコーヒー
私個人としては、自分で買ってきた10銘柄を一気に飲んでいただくカッピングイベントを開くことが、ひとつ楽しみにしていることです。去年は札幌、仙台、東京、名古屋の4箇所で開きましたが、全国をまわって各地のコーヒー屋さんにご紹介できるので、とても楽しみなイベントです。また、去年は実現できなかったSCAJ(年一回のスペシャルティコーヒーの展示会)でのカッピングイベントも開けたらいいなと思っています。
エルサルバドルとのダイレクトトレードについてお伝えしてきた連載も今回で終わりとなります。私たちにしかお届けできない物語を半年にわたって詳しく紹介してきましたが、そのうえで改めて思うのは、エルサルバドルはコーヒーの産地のなかでもマイナーな国なのだということです。じっさい、日本国内で取り扱われているエルサルバドルコーヒーの種類はそれほど多くありません。そのなかで、私たちが買いつけているパカマラやゲイシャのクオリティは素晴らしく、ワクワクするようなラインナップをそろえていると自負しています。
私たちがお届けするエルサルバドルのコーヒーには、これまでお伝えしてきたようなエルサルバドルの魅力が詰まっています。これからも、そんな特別なコーヒーを純粋にお楽しみいただければと思います。